|
「これに精液をとってきてください。」 と試験管を渡されました。 「ど、どこでですか?」 ボクは素直にそれを受け取り、地下の売店でヌードグラビアのついた雑誌を買って、なるべく人気の少ないトイレに行きました。その日も卵管の通気テストを受けているシッポナのことを考えると、ボクが検査を躊躇することはできないと思いました。シッポナが毎回受けているいろいろな検査は、激しい羞恥と痛みを伴うものです。目を真っ赤にして検査室を出てきたこともありました。
|
|
◆体外受精◆
|
|
◆タロー◆
何度目かに人工授精した卵の成長が「8分割したところで止まった」という連絡を病院から受けたあと、ボクは妻に言いました。 「いつか何十年かたって医学が進歩したら、ボクたちのような悩みがうそのように解決するときがくるだろう。でも今はこれが限界だから、ボクたちは二人っきりの将来を考えることにしよう。仕事を二人だけでこじんまりと続けらるようにして…そうだ。大きな犬を飼おう。」 たぶん、ボクはこう言ったように記憶しています。丸一昼夜泣き続けたシッポナは翌日、 「犬の名前はタローね。」 泣き腫らした顔で言いました。
「あ、タローくん、いよいよね。」 と、名前まで知っていて喜んでくれます。ずっとシッポナが会う人ごとにこう言ってたからです。 「仕事が落ち着いたらゴールデンを飼うの。名前はタローよ。」
|